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猫コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎

獣医師スタッフブログ 2016.11.08 UP DATE.

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猫伝染性腹膜炎(FIP)という病気を、猫を飼っている、あるいは飼ったことがある方は耳にしたことがあるかもしれません。

猫伝染性腹膜炎(FIP)はウイルス感染による炎症から腹水や胸水が貯まったり、肉芽腫という塊状の病変が全身の色々な臓器に出来てしまったりする病気です。腹膜炎と言う名前が付いていますが、お腹に限った病気ではありません。

発症した猫のほとんどが亡くなってしまう、猫の恐ろしい伝染病の1つです。

初期症状は発熱、沈うつ(元気がない)、食欲不振、体重減少などです。

 

FIPは猫コロナウイルス(FCoV)が猫に持続感染して増殖を繰り返すうちに変異を起こし、変異が蓄積してFIPVとなることで発症すると考えられています(弱毒〜強毒性のFCoVが存在するという説もあります)。

FCoV感染は感染猫の糞便より経口・経鼻感染を起こし、発症すると比較的軽度の腸炎を起こします。

感染源となる糞便中でウイルスは2ヶ月程度生存します。

FCoVに感染すると感染後1週間以内で糞便中へのウイルス排泄が始まり、2週間程度で抗体が産生され抗体検査で陽性となります。

そして、大半のFCoV感染は発症せず無症状で持続感染した後、3〜7ヶ月程度でウイルス排泄が終わり排除されますが、一部の猫は生涯持続感染を維持しキャリアーとなると言われています。

 

近年の調査では、

国内の猫のFCoV抗体保有率は純血種で66.7%雑種で31.2%であり、3ヶ月〜1歳齢の純血種で75%以上の抗体保有率をピークとして高齢となるにつれて低下した一方、雑種では年齢で大きな差のない陽性率であった(Taharaguchi S., Soma T., Hara M. :Prevalence of feline coronavirus antibudies in Japanese domestic cats during the past decade, J Vet Med Sci, 74(10): 1355-8, 2012.)

と報告されています。また、幼若な純血猫の多頭飼育状況下では、陽性率は100%近くなるという話もあります。

長々と書きましたが、

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)は致死率の高い怖い病気

猫コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎(FIP)は関連がある

猫コロナウイルスを持っている猫は案外多い、特に若い子で注意

 

という3点がポイントです。

 

しかし、FCoV陽性猫のうち FIPを発症するのはわずか数%だと言われています。

先にも書きましたが、感染中に増殖を繰り返して変異が蓄積することが問題なのです。

なので、FIPを発症させないために大事なことは、

 

猫コロナウイルスの感染の有無を知っておくこと

感染があるのであれば、ストレスの軽減や免疫力低下の原因を減らすことに配慮して、ウイルス増殖を抑制すること

・急な環境の変化や工事の大きな音などそれぞれの猫が嫌がりそうなこと・ものを避ける(猫それぞれなので何をとはなかなか言えませんが…)

・定期検診を受け、体調が悪そうなら早めの受診をする、など

多頭飼育であれば、衛生管理を徹底すること

・感染猫の使用した食器・トイレなどはアルコール系の消毒剤または家庭用洗剤で十分に洗浄・消毒する

・新しい猫を迎える場合は検査の判定が出るまで一緒にしない、など

 

FIPに関しては不明な点も多く現在も研究が進められているところです。

そのため対策をとったから絶対に発症しないとは言えません。

ですが、FIPを発症するとできることは限られます。発症してからでは遅いのです。

 

 

最近実際にコロナウイルス性腸炎と診断した子とFIPと診断した子の、症状・検査・診断の流れをそれぞれ例として挙げます。

 

◎猫コロナウイルス性腸炎

症例:1歳5ヶ月齢 雑種猫

主訴:ここ3週間ほど軟便・下痢・便中への少量の血液の混入を繰り返している

経過・検査:

来院時元気はありました。

お話を聞くと、3、4ヶ月前に新しい仔猫を貰い受けてきて、2匹でとても仲良くしているとのことでした。

糞便検査とエコー検査、ウイルス検査歴やワクチン歴が無いということだったので血液検査を行いました。

糞便検査では細菌を見ても大きな異常は確認できず虫卵も無く、ジアルジア検査も陰性、血液検査ではエイズ・白血病は陰性でした。

エコー検査では腸の一部が少し腫れていましたが異物所見は確認できませんでした。

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その日は腸炎が疑われたので、低刺激のフードと整腸剤を処方し、

後日、自宅で採便して頂いて便中の病原体の詳細な検査に送ることになりました。

4日ほどで検査が返ってきて、便中に猫コロナウイルスが排出されていることから、コロナウイルス性腸炎と診断しました。

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症状は現在落ち着いていますが、同居猫と共にFIPへの注意がこれから必要です。

 

◎FIP

症例:6ヶ月齢 メインクーン

主訴:数日元気食欲がない

経過・検査:

来院時40.1℃と高熱があり呼吸も粗くとても辛そうでした。

まず血液検査とレントゲン検査を行うと…

血液検査では、血中の蛋白のグロブリンという成分が著しく上昇しており、

レントゲン検査では胸水の貯留が疑われました。

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そこでエコー検査を行うと…

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大量の胸水が確認されました。

呼吸が苦しい原因はこの胸水によるものであると考えられたため、

まず胸水少し抜いて検査を行いました。胸水は、薄黄色で比重が高く、化膿性の細胞はそれほど多くありませんでした。

その後、鎮静下で胸腔穿刺をして胸水を抜くことになりました。

(一般的に無鎮静で抜くこともありますが、今回は初めての胸腔穿刺なので安全に行うため、また一度抜き切って空にする必要があると考えられた為、鎮静をかけて行うことにしました。)

呼吸の悪化した状態での鎮静処置のため、酸素吸入を行い何があっても良いように万全の態勢で行いましたが、

幸いトラブルなく処置を行うことができ、ほとんどの胸水を吸引することが出来ました。

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(写真は別の日に抜去した胸水です。)

この段階で、FIPが強く疑われたため、ネコインターフェロンとステロイド剤、抗生剤の投与を行いました。

そして、胸水の一部を原因特定のために検査に送りました。

数日後、胸水の検査の結果が届き、 猫伝染性腹膜炎(FIP)であると診断されました。

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この子は診断後1ヶ月以上、ご家族の懸命な介護もあってとても頑張ってくれましたが、残念ながら亡くなりました。

 

FIPには今の所著効する治療法はありませんが、現在もいろいろな治療法が検討され続けています。

FIPウイルスを特定する遺伝子の検査ができるようになったのも近年のことですし、

研究が進みより良い治療法が開発されるのを期待しています。

 

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