先日、ここ1ヶ月くらい1日1回吐く、と来院した猫らしい気まぐれなコロッケちゃんのお話です。
まずは身体検査、ということでお腹を触ると腹壁にそってやや硬いものが触りました。
これはおかしい、何かが腫れています、ということで
即エコー検査を実施したところ、腫れているのは脾臓のようでした。
微量ながら腹水も確認されました。
あまりに大きく腫れているので、細胞を見た方が良い、と判断しました。
しかし、あまり長いこと動かないように保定していると、コロッケちゃんの癇に触るようで
怒り出してしまったので、安全に検査を行うために、後日鎮静下で針を刺して細胞を採取しました。
すると、
濃い紫で丸く染まっている核の周りに、近い色でつぶつぶがたくさん確認できる細胞が多数採取されました。
細胞の所見から肥満細胞腫という腫瘍の可能性がかなり高く、
少量の腹水中にも同様の細胞が採取されたことから
早期に脾臓の摘出を実施した方が良いと判断しました。
【肥満細胞腫について】
肥満細胞は肥満に関係した細胞ではありません。
血液系の細胞で、青い顆粒の中にヒスタミンなどの物質を溜めており、
たくさん蓄えているその姿から、「肥満」と呼ばれるようになったようです。
顆粒の中の物質を用いて、炎症や免疫反応に関連します。
肥満細胞腫はその肥満細胞が腫瘍化することで発生します。
猫では皮膚で発生するパターンと内臓で発生するパターンがあります。
皮膚は良性、内臓は悪性の挙動を取ることが多いです。
肥満細胞の持っている機能が症状に関係しており、特に内臓型ではそれが消化器症状として現れることがあります。
また、ひどい場合にはヒスタミンショックという救急状態を引き起こすこともあります。
摘出してきた脾臓がこちらです。
20cmを超えて大きく腫れており、見た目にゴツゴツと不整で、一部変色して壊死が疑われる部分もあります。
こちらを病理検査に送り、病理学的診断と後に抗がん剤が必要になった時のために遺伝子変異の検査をお願いしました。
【遺伝子変異について】
肥満細胞腫と一部の腫瘍では増殖の伝達に関わるc-kitというものの遺伝子の変異があり、
それが腫瘍の増殖に関連しているということが分かっています。
そして、この変異のある腫瘍では「分子標的薬」と呼ばれる抗がん剤が効果的であると言われています。
そのため、遺伝子変異があれば治療の選択肢が広がる可能性があるため検査を行います。
(分子標的薬にはc-kit以外の効果経路もあり、薬によっては変異がなくても使用することもあります。)
脾臓の肥満細胞腫は手術の反応が良い傾向にあることが分かっています。
コロッケちゃんはエコーと手術中の目視で、転移は認められませんでしたが、
腹水中に腫瘍細胞が確認されたことが心配です。
今後は術後の傷の経過と腫瘍の動向にしっかりと気を配って治療を進めていきたいと思います。
福岡動物メディカルパーク リヴ動物病院