こんにちは。
獣医師の中尾です。
寒さが厳しくなってきました。
体調を崩さないよう手洗いいうがいを忘れずに過ごしましょう。
今回は猫のパンチちゃんです。
歯が抜けてしまったとのことで来院されました。
下の写真が抜けた犬歯(一番尖っている歯ですね)です。
尖っている方が先っぽで、太くなっている方が根元です。
根元の方は歯の色が見えなくなっていて、歯石(歯垢が硬くなったもの)が付いています。
基本的には歯は丈夫なので、根元から抜けることは少ないです。
硬いものをあげることやケガで歯が割れたり、折れたりすることはあります。
以前は歯石予防のために硬いものをあげていましたが、
最近では歯を破損することが多いため推奨されていません!(特に小型犬は注意です。)
根元から抜けるということは、歯の周りがもろくなってしまっている可能性が高いと考え、
お口の中をチェック支えていただきました。
写真が見えづらくて申し訳ありませんが、
左側の上の犬歯も抜けた歯と同様に根元の方が変色しています。
また抜けた方の右側を見てみると、歯の根元があった部分が赤く変色しています。
※パンチちゃんはとても良い子でお口を見させてくれましたが、嫌がったり、怒ったりすることもあるため注意してください。
子猫の時から触って嫌がらないよう練習しとくのをお勧めしています。
レントゲンは撮影していませんが、歯根や歯槽骨(歯の周囲の骨)も溶けていると考えられました。
歯が自然と抜けるくらい歯周病が進んでいるため、歯科処置をすることとなりました。
※歯肉炎は歯や歯槽骨にまで病変が及んでいない状態で、歯周ポケットが形成されると歯周病になります。
当院の歯科処置は麻酔下にて実施しています。
無麻酔下でスケーリングを謳っている施設(動物病院ではほとんど実施しません)もありますが、
個人的には歯周病の治療・管理にはほとんど意味がないと考えられています。
見た目は綺麗でも歯周ポケットがズブズブだったり、歯周病と思っていたら口の中に腫瘍があったり、
なんてことも多々あるため基本的には麻酔をお勧めします。(持病がある場合は要相談です)
麻酔下で行うことで
- 口の隅々までしっかり確認できる(正確な診断と治療につながります)
- 処置中の怪我や誤嚥を防げる(口開けたままでじっとしてくれません)
- ストレスが少ない(起きている状態で口の中をいじられるのは動物さんにとって苦痛です)
もちろん麻酔のリスクや費用の問題はありますが、
今後の動物さんの生活の質を上げていくためにはとても大事なことです。
歯科処置の流れとしては
- スケーリング(歯石や歯垢を超音波で削る作業です。歯医者でイメージする作業ですね。)
- ルートプレーニング(歯茎の中=歯周ポケットのお掃除、ここが歯周病の進行に大きく関わります)
- ポリッシング(歯の表面についた細かい傷を滑らかに仕上げる、これしないと余計に歯石が付くはめに)
無麻酔下だとスケーリングまでが限界です。(それも超音波の器械でなく削り落とすだけなので、歯の表面はざらざらです)
気持ち的には表面が綺麗になるため、すっきりするかもしれませんが・・・
少し長くなったので、ここらへんにしといて
実際の歯科処置時のお口の写真です。(麻酔がかかっています)
診察の時には確認できなかった臼歯(犬歯より後ろの歯)も確認できました。
赤丸が歯周病部分、青丸は歯肉炎もしくは正常部分です。
歯周ポケットの深さや歯茎の状態から上の歯は左右共に抜歯しました。(切歯=前歯は残しています)
3週間ちょっと経ったパンチちゃんです。
食べる時の食べづらそうな感じや、口臭がなくなったとのことでした。
もちろん歯科処置後、2〜3日は麻酔のストレスや口の違和感はあります。
パンチちゃんはとても良い子なので、大人しかったんですが、
僕の下手なカメラワークのせいで少しブレています。笑
言い訳すると写真を撮るにはiPadは少し大きいです・・・
そんな話は置いといて、歯茎の赤みが消えているのが確認できると思います。
自然に抜けた左上の犬歯の部分はまだ赤みが残っているため、
もう少し時間がかかるのか、下の歯に接触しているのかもしれません。
飼い主さんとパンチちゃんが満足してくれて何よりでした。
わんちゃん、ねこちゃんの高齢化が進む中、
歯科処置が必要な子がどんどん増えてくると思います。
いざ気になったり、症状が出たりした時に、
高齢で(15歳とか)麻酔のリスクが高いため処置に踏みきれない子や、
持病の影響で処置に踏みきれない子なども沢山見てきました。
気づいた時にできるよう、日頃からお口のチェックやデンタルケアをしましょう。
処置に興味がある方は実際にお口をチェックしてお話しますので、
ご気軽に相談ください。
福岡動物メディカルパーク リヴ動物病院